ルイ14世を魅了したエンドウマメの歴史

シワから遺伝の法則を発見

 トマス・ナイトは園芸家兼植物学者で、ロンドン園芸協会の会長を務めていた。またたいそうなお金持ちでもあり、ヘレフォードシャーのダウントン城の他、4000ヘクタールの土地を所有していた。ナイトはシワのある豆を交配して「マローファット」と呼ばれるシワのある品種群を生み出した。1787年にはすでに、「ナイトのシワのあるマロー豆」は英米の菜園を席巻していた。米国第3代大統領トマス・ジェファーソンは、屋敷の庭にこの豆を年に2回植え、スープに入れて食すのを好んだ。

 シワができる原因が判明したのはそれから長い年月が過ぎた1990年代、分子生物学者がエンドウマメの調査に着手してからのことだ。エンドウマメは熟すにつれて、体内にある糖をデンプンに変化させる。この変化をうながすのがSBE1と呼ばれるデンプン分枝酵素だ。シワのある豆は、この酵素に欠陥があるせいで糖がそのままの状態で残される。糖分の多い豆は成長の過程で通常よりも水分を多く蓄積するが、乾燥する際にもより多くの水分を失い、その結果、空気の抜けた風船のようにシワシワになる。

 ナイトはシワの入った豆で数多くの実験を行った。シワの品種をシワのない品種と掛け合わせ、さらには背の高さ(高いか低いか)、花の色(白か紫か)、種子の色(緑か黄色か)など、豆のさまざまな特徴についても研究を続けた。ナイトはそうしてできた豆の数を丹念に数え、結果を記録し、何冊ものノートをデータで埋め尽くし、さらには観察結果を詳述した学術論文まで発表した。しかしナイトが到達できたのはそこまでであった。

Photograph by Bob Gaffney, Creative Commons 2.0

 それから約50年が過ぎた頃、オーストリアにある聖トマス修道院の司祭グレゴール・メンデルが、以前から続けていたネズミの研究をやめるよう司教に言われたことから、次は庭でエンドウマメの研究をしようと思い立つ。メンデルはナイトと同様の交配実験を数多く行ったが、彼がナイトと違った点は、その実験結果のなかに特定のパターンやその原因の仮説を見出すに至ったことであった。

 8年という歳月をかけて、メンデルは2万9000株のエンドウを育て、その結果を踏まえてあのメンデルの法則を確立、近代的な遺伝学への扉を開いた。

(文=Rebecca Rupp/訳=北村京子)