とりわけ衣類と寝袋に関しては非常にデリケートな対策が求められる。太陽が出ないということは、要するに濡れたものを乾かせないということだ。北極圏では空気が非常に乾燥していることは間違いないが、しかしそれでも長期間旅行をしていると、テントには自分たちの息や汗や炊事の水蒸気が固着して、どうしても湿っぽくなってくる。その水分が、例えば羽毛服なんかに着くと、中の羽毛がへたってきて保温力がなくなっていく。それが春の太陽が昇る季節なら、濡れたものを橇の外側に括り付けておけば歩いている間に自然と乾くが、極夜ではそれができないので、羽毛服は水分を吸って重くなるばかりで、寝袋にいたっては1カ月もテント生活をすると氷の塊のようになってしまう。

 デサント社に相談したのは、極夜で長期間旅をしても濡れない防寒着だ。正確にいうと濡れないというのは無理なので、濡れても水分を溜めこまない防寒着である。羽毛や、あるいは化学繊維の綿系素材が入った防寒着だと、どうしても水分を中に溜めこんでしまい乾かなくなってしまう。だったら綿系素材ではなく、フリースか毛布のようなもので作ったほうが、水分を外に発散するだろうからいいのではないか。今年のグリーンランドの旅でそんなことを思いついた私は、帰国後すぐにデサント社の担当者と相談し特注品を作ってもらうことにした。そのサンプルがこのほど出来上がり、サイズや細かい点の修正を伝えるため大阪に訪れたのである。

 特注した防寒着は、米国の特殊部隊と繊維メーカーが共同開発した特殊素材を3枚重ねにし、外側に起毛したフリースを縫い合わせたものである。少しサイズが小さかったのでそこは修正することにしたが、着心地は京都の老舗布団屋の高級毛布のような肌触りだった。担当者によると、この特殊素材は非常に高価で、「こんな高いものを3枚も使ったら商品としてはとても成立しないので、こんな発想自体、ぼくらからは出てこない。非常に面白い経験です」とのこと。一瞬、皮肉を言われたのだろうかと思ったが、私は気にしないことにし、「思ったより出来上がりが軽かったので、この高級素材を3枚から4枚に増やしてくれませんか」と追加注文をお願いした。

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