私が小さい頃、祖父母の家は蚕と花の農家だった。ほとんど記憶にはないが養豚もおこなっていた。要するに複数の作物をつくり、家畜も育てる零細農家だ。

 自分たちが食べるための米や野菜もつくっていて、食卓にはいつも採れたての野菜が並んだ。祖母は年越しそばやお正月の餅も手づくりする。大晦日、みんなが炬燵に入ってNHK紅白歌合戦を見ているときも薄暗い台所で準備をしていた。そば粉が生地になり、裁断されてそばになる様子は子ども心にとても興味深く、食べ物が出来上がる過程を知るよい機会だったといえる。

 そのなかで特に好きだったのが「コンニャク」だ。畑で採れたコンニャク芋からつくるコンニャクは、市販のものに比べて無骨なかたちで表面もざらざらしているが、みずみずしくてやわらかい。煮物やけんちん汁に入れると汁をたっぷりと含んですごく味わい深くなる。子どもの私はけんちん汁をつくっているのを知ると、「コンニャクをたくさん入れてね!」とせがんだ。そして、コンニャクだけを食べておかわりする。

群馬の祖母。(写真クリックで拡大)

「明紀ちゃんはコンニャクが好きだから」と祖母はいつもコンニャクをたくさんつくって迎えてくれた。大人になって長居ができなくなると、帰り際にたくさん持たせてくれる。食べきれないからと友人におすそ分けをすると、その味を絶賛された。自分がつくったわけでもないのに、なんだか誇らしい気持ちになった。

 その祖母は現在90歳。かくしゃくとしてはいるが、昨年怪我をして入院し、退院直後に夫、つまり私の祖父を亡くしてからはすっかり気を落としてしまっている。東京と群馬ならそれほど遠くはないが、気軽に会いにいける距離でもない。気にかけながらも、今年もコンニャクの季節がやってきた。

 コンニャク芋は秋に収穫する。母に祖母の近況を問うと「コンニャクは今年が最後かもしれないよ」と言う。祖父母は年を取って出荷をやめてからも、ずっと畑で野菜をつくり続けていた。しかし、祖父が亡くなってから祖母は畑に出ないことが多く、昨年植えたものが最後になる可能性があるというのだ。そこで、祖母の様子を見に群馬へと向かったのである。

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