File8 食べる喜び 中川明紀
最終回 小さい頃から大好きだった祖母の手づくりコンニャク 前編
「いただきます」と「ごちそうさま」。
食事の時に自然と発している言葉だが、どのような意味が込められているかご存知だろうか。
「いただきます」は肉や魚、野菜などの食材への感謝を意味している。自分の命のために命あるものをいただくことに対する畏敬の念だ。いっぽう、「ごちそうさま」を漢字で書くと「御馳走様」となる。冷蔵庫もコンロもない昔は食材を集め、料理をするのは今よりもずっと大変なことであった。奔走して料理を用意してくれた人への感謝の言葉なのだという。
そうやって感謝するのは私たちにとって食事が大切なものだからだ。もちろん、生きていくために不可欠なものだが、それだけではない。食べることに喜びがあるからこそ、湧き出る気持ちではないかと思う。
その喜びには大きく2種類ある。1つは料理の素材や味付けが“美味しいこと”に対する喜び。それが、自分にとって特別な料理であればなおさらだ。そしてもう1つが“食卓を囲む”喜び。家族の夕ご飯や学校の遠足、町内のお祭りなど、食卓を囲むシーンはいろいろあるだろう。ただ、どこであってもたいていは多くの人の笑顔があふれている。
そんなことを思ったのは、私にとって2つの喜びが得られる「特別な料理」が食べられなくなるかもしれないからだ。それは、祖母がつくる「コンニャク」である。
東京の下町で生まれ育った私にとって、夏休みとお正月に1週間滞在する群馬の母方の祖父母の家は大切な場所であった。当時は意識していなかったが、自宅の近くで緑が豊富にあるところといえば整備された埋立地。「探検ごっこ」と称して住宅の隙間をすり抜けるような子どもにとって、山に囲まれ、渓流が流れる群馬の田舎は自然と触れ合える数少ない場所だったのである。
本誌2014年12月号では特集「シリーズ90億人の食 「食べる」は喜びの源」を掲載しています。世界の食の喜びを紹介したWebでの記事はこちらです。ぜひあわせてご覧ください。
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