そして、つい最近、クリフハウスの本棚に置いてあったある本のことを思い出しました。
その本とは、自然観察とトラッキング(地面に残された足跡からさまざまな情報を読みとる技術)に関するガイドブック、『TOM BROWN’S FIELD GUIDE TO NATURE OBSERVATION AND TRACKING』でした。
著者のトム・ブラウン・ジュニアは、幼い頃、ストーキング・ウルフという名のアパッチ族の古老に、トラッキングの技術を教えこまれたのだそうです。
タイトルが気になって、何気なくその本を手に取ってみると、表紙も中身も黄ばんでいて、ところどころに破れがあり、よく読み込まれているように見えました。
もしかしたらジムもこの本を読んで、自然観察の参考にしたことがあるのかもしれないと思って、ぼくも読んでみることにしたのです。
本の大部分は、トラッキングのテクニックが、イラスト入りで詳しく説明されていました。
が、ぼくがその本のなかで気になったのは、「Pathways to Nature=自然への道」と題された最初の章でした。
その章は、イギリスの歴史家・思想家であるトーマス・カーライルの引用で始まっています。
「人生の悲劇とは、苦しむことではなく、見過ごしてしまうことだ……」
目の前のことに気づかないでいることこそ悲劇であり、そうならないためにどのような心構えが必要なのか、それが項目ごとに短い説明文を添えて記されていたのです。
「心をクリアに」から始まり、「時間を気にするな」「ゆっくり」「座れ」「分析するな」「ありきたりのことなんてない」……と続くその内容は、自然観察のテクニックというよりは、まるで生き方について指南しているような、示唆に富むものでした。
しかも、レイチェル・カーソンと同じように「名前を気にしない」ことの大切さが書かれていて、ぼくはこの本への興味がいっそうわいてくるのを感じました。
読み込んでみると、どの項目も面白い内容で、すべてを紹介したいぐらいですが、そのときのジムの行動をみて思い出したのは次のふたつでした。