第83回 トム・ブラウンの教え
7月も下旬にさしかかると、日当りのいい岩棚の上や、森の下生えのなかに、ブルーベリーの実たちが、顔を覗かせるようになりました。
高さが30センチもないような茂みで、まるまるとふくらんだ青紫色の粒が、房なりにぎっしりと肩を寄せあっています。
その房の下に手をいれて、くすぐるように指先を動かすと、熟した実だけが手のひらに転がり落ちてきます。
それを数回くり返すだけで、あっというまに片手いっぱいのベリーが集まります。
そして、一気に頬張ると、さわやかな甘さの果汁が口の中に広がって、たまらない美味しさでした。
何度も口に運んでいるうちに、いくつかのベリーは、手のひらからこぼれて、地面にも落ちていきました。
鳥や小動物に食べられるのもあるでしょうが、こうして落ちたベリーのうちのいくつかが、やがて芽を出し、ふたたび実をつけるのでしょう。
いわば、ブルーベリーたちは、動物も、人間も、食べきれないほどの実をつけることで、さらに世界を広げて茂っていくのです。
その気前の良さに、ぼくは自然の豊かさを感じずにはいられませんでした。
そんなふうにして、森にブルーベリーが実る頃、ちょうどイリーの町では、その名もブルーベリー・アートフェスティバルという、1年でもっとも人が集まるお祭りが開催されようとしていました。