とりあえず冷蔵庫を開けてみると、そこはなんと、壮大に広がる氷原のように、空っぽだった。

 そう言えば、最近、肉を食べ切ったところだった。

 戸棚にパンが残っているはずだと、手を伸ばしてみると、そこもまた、広大な平原のように空っぽで、手が棚の板に触れるだけである。

 私は青ざめた。

「食料無いじゃない……」

 トーニャは、パンの代わりに、大量にあるシリアルを持っていこうと言った。

 が、サクサクと軽いシリアルでは、到底、体力がもたない。

 こういう寒くて厳しい旅に出るときは、絶対に肉、肉、肉だ。

 さらに言えば、私は日本人なのだから、米、米、米がいいのだけれど、ここはアラスカだから、パン、パン、パンじゃなきゃ、やっていられない。

 私はとっさに、食料棚から小麦粉を出すと、ボールに粉を入れて、ミルクと砂糖を加えて捏ねはじめた。

「どうするの?」トーニャが聞いた。

「パンの代わりになるものを作るのよ」

 今からでは、発酵に時間がかかるパンなど焼いていられない。

 私は素早く鍋に大量の油を入れると、火をつけて、その生地を小さく丸めたものを、次々と投入していった。

 いわゆる即席揚げドーナツで、沖縄のサータアンダギーのようなものである。

 極寒の中で肉体を酷使することになるのだから、これぐらい食べ応えのあるものでなければ、力が出ないというものだ。

 まったくレシピを無視した揚げドーナツだけれど、まあ無いよりマシというものなのだ。

 トーニャの方もジャガイモを茹ではじめ、出来上がったものから保存容器に詰めていると、トーニャはさらに何かを思い出したように、地下の倉庫へ行き、冷凍保存のソーセージを大量に持ってきた。

「やった! 肉だ」

 これでなんとかなるだろう。

 私たちは時間の遅れを取り戻すかのように、スノーモービルに飛び乗ると、ロッジを出発して雪山をひた走った。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/

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