それまで知られていたヨーロッパやアフリカの遺跡では、マグロなどの利用は一番古くても3万年前頃だそうだが、人類が海洋に適応する最前線だったウォーラシア海域では、さらに前からそれらを捕っていた。

 ところで、マグロなどの外洋性の魚を捕るにはどれくらい沖に出なければならないのだろうか。ふと考えれば、今も相模湾や駿河湾にマグロが入ってくる。定置網にかかったり、遊漁船で釣られることもある。

「ええ、そうです。日本もそうなんですけど、ガーッと海が深くなったりしてると、結構入ってくるんですよね。ですから、ここも議論がちょっと分かれていて、私が主張したのは、外洋性というより、遊泳速度の速い魚を捕っていたということです。どこで捕っていたかっていうよりも、捕り方のほうの問題です。恐らくマグロとかサバ科ですと、釣りで捕るのが最も一般的なので、釣り漁が既に4万年から3万年前に実践されていたかもしれないという、その根拠につながるのですごいということを言いたかったんです」

 論文は外洋まで出て漁をしていたかもしれないというところが注目されがちだそうだが、それは正直言って分からない。しかし、マグロやカツオを捕るには釣りが最初の選択肢であり、それをウォーラシア海域ではかなり昔からやっていたと示唆するものと捉えるべき、という。なお、釣りをしていた証拠は、氷河が後退し海面が上がった1万年前の完新世の始まり以降になると、世界のあちこちで見つかるそうだ。

「やっぱり海面がどんどん上がってきて、とにかく世界じゅうで人類と海とのかかわりっていうのがすごい急激的に増加した、そういう時代ですから」

 ウォーラシア海域はそれを先取りする、海への適応の現場だったと言えそうだ。

ジェリマライ遺跡で出土した釣り針。先端部分の長さは1.5センチほど。貝製としては世界最古で、もっとも古いものは2万5000年前から1万8000年前の間に作られたと考えられている。貝製の釣り針はいまのところ主にオセアニアから東南アジアで見つかり、その他の地域は基本的に動物の骨や角を使う。釣り針に貝をつかうあたりもいかにも海域世界的で興味深い。(写真提供:国立オーストラリア大学、スー・オコナー博士)(写真クリックで拡大)

つづく

小野林太郎(おの りんたろう)

1975年、島根県生まれ。東海大学海洋学部海洋文明学科准教授。博士(地域研究)。2003年、上智大学外国語学研究科地域研究専攻博士課程単位取得後、日本学術振興会特別研究員(国立民族学博物館)、総合地球環境学研究所研究プロジェクト推進支援員,日本学術振興会海外特別研究員(オーストラリア国立大学)などを経て,2010年より東海大学海洋学部海洋文明学科に所属。専門は海洋考古学、東南アジア地域研究、オセアニア考古学。『海域世界の地域研究 (地域研究叢書 24)』(京都大学学術出版会)などの著書がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。最新刊は、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。

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