「もう1つは、海の世界での人類の移動です。例えば、南太平洋の島々(リモートオセアニア)の中でもアジアから最も遠い東部に位置するポリネシアは、人類にとって最後のフロンティアで、ニュージーランドやイースター島への入植が完了するのはわずか800~1000年前頃とも言われています。どうやってヒトは、海洋世界に広がり、また、海を行き来しながらそれぞれの生活を、歴史を紡いでいったのだろうという人類史的な興味でもあるのです」

 人類が海に適応するプロセス。さらに海洋世界を人類はどう拡散していったのかという人類史的な興味。これらを、トータルに理解することが小野林太郎さんの目標のようだ。海を通じて世界を見渡し、扱う年代にしても、地理的な広さにしても、非常にスケールの大きな研究なのである。

 小野さんの論文に掲載された地図を見つつ、まずは位置確認。

(画像クリックで拡大)

 インドシナ半島からスマトラ島、ジャワ島を経て、さらに東にバリ島やロンボク島、さらにさらに行けば巨大なニューギニア島やソロモン諸島がある。その「間」が、小野さんが拠点としているフィールドだ。南側を見れば、すぐにオーストラリア大陸であることも印象的な海域である。

 実はこのあたりは、小野さんが関心を持つ「海への適応」「人類の移動」の両方のテーマについて、地理的にも歴史的にも特別な場所だ。

「4万年とか5万年前の最終氷期の時代、海が退いて、オーストラリアとニューギニア島が合体したサフルランドという大陸になっていました。一方で、現在のベトナムやカンボジアなどがあるインドシナ半島からインドネシアのスマトラ島、ジャワ島、ボルネオ(あるいはカリマンタン)島あたりまでがぜんぶ地続きになってまして、この陸地のことをスンダランドといいます。そんな時期に、人類が初めて海をわたってサフルランドにいった。オーストラリア、ニューギニア、つまり、はじめて人類がオセアニアに到達し、移住した時期だと言われています。そのときに渡らなければならなかったのが、ウォーラシア海域の海です。今のインドネシア東部の島々や東ティモールのあたりですが、この海域は氷期の時代も一貫して海と島からなる多島海でした。私が調査してきた遺跡は、移住の通り道になってきたこのウォーラシア海域の島が多いのです」

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