第113話 なんと!なんと!朝一の電話に、嬉しびっくり
「お元気ですか?」
トーニャから電話を代わった私は、嬉しさのあまりに、なんだか照れくさくて、思わず幼い少女がはにかむような声で言った。
すると電話の奥で、「ふふふ」と笑う息づかいが聞こえてきた。
「わしは、元気じゃが……、もう長くないんじゃ」
いきなりそんな言葉が聞えてきて、私は驚き息を飲んだ。
オリバー爺さんの体が、長い間、血液の癌に蝕まれていることを、私は知っていたのだ。
森に暮らし、自然のものを食べ、ストレスなく生活することで、オリバー爺さんは、命を繋いでいたのだ。
そんな彼は、弱々しい息づかいで言った。
「お前さんに……、わしの森のキャビンを見せたいんじゃ……」
私は、動揺して高まる胸の鼓動を抑えながら会話を続けた。
「デッドフィッシュ湖の、お爺さんの丸太の家ですか?」
「そうじゃ。あそこには、お前さんが学びたいだろうことが、いっぱい詰まっておる」
「お爺さんの50年と、知恵と技術が詰まったキャビンですね」
「そうじゃ。そこへは、今の季節じゃと、犬橇でしか行くことができんから、ちょっとした冒険になるぞ」
以前、オリバー爺さんは、大きな地図を床に広げて、そのキャビンのあるデッドフィッシュ湖の場所を教えてくれたことがあった。
そこは、広大な湿地帯の中にある小さな湖で、常に大地がぬかるんでいるために、車でのアクセスが全くない。
湖が凍っていない季節ならば、水上飛行機をチャーターして飛んで行くことができるが、陸路を行くとなると、湿地帯が完全に凍結する真冬に限られる。
しかもガソリンなどの補給地がないことを考えると、唯一の有効な手段は、犬橇だ。