第12回 不眠症の本質は睡眠時間の誤認である

1.慢性不眠症の患者さんの大部分(ほぼ100%)は脳波で測定した実際の睡眠時間よりも眠りを短く感じる。同様に、寝つきにかかる時間(消灯から入眠までにかかる時間)も長く感じる。

2.脳波上の睡眠時間と主観的な睡眠時間の乖離が大きい場合は「睡眠状態誤認」という診断名がつけられる。睡眠状態誤認はれっきとした不眠症の一型である。

3.睡眠状態誤認は詐病や意図的な誇張ではなく、睡眠時間を正しく把握できない時間認知機能の低下が関連している。

今から50年以上前に、不眠症の本質的な問題は睡眠状態誤認であることを世界に先駆けて喝破した日本人研究者がいた。このグラフはその金字塔的な業績から作成した(遠藤四郎、精神神経学雑誌、1962)。不眠症患者が実際よりも睡眠時間を短く、寝つきを長く感じているのが一目瞭然である(スクリーン部分)。Kさんのデータは赤点で示した。この中では“軽症”の部類に入る。対照的に健常者の多くはy=xのライン近辺に位置している。すなわち時間認知が正常に働き、脳波睡眠と主観的睡眠感がほぼ一致している。(画像クリックで拡大)

 高血圧や糖尿病の治療であれば診察室で血圧測定や血糖値を測れば重症度や治療効果がある程度判断できる。その点、不眠症は実に厄介である。なにせ患者さん自身の“体験談”に頼らざるを得ないから。その真偽が怪しいとしたら……。

「先生、前回出してもらった睡眠薬、ぜんぜん効きませんでした。なんとか助けてください」

 この“ぜんぜん”とか“助けて”というキーワードに主治医は弱い。何で効かないのだろうと首をひねりながらも根負けしてもう1錠追加……。気付いてみたら3錠も4錠も睡眠薬を処方して、その後の対処に窮した経験をもつ医者は少なくない。

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