第12回 不眠症の本質は睡眠時間の誤認である
「何時間、眠れていますか?」
寝床に横になっていた時間ではなく、眠りに落ちていた時間である。睡眠時間を尋ねられたら読者の方々は的確に答える自信をお持ちだろうか?
長年の不眠症に悩むKさんのケースで考えてみよう。さまざまな病院で何種類もの睡眠薬を処方されたが効果がなく、睡眠ポリグラフ検査(1晩中脳波を測って睡眠の長さや深さを客観的に測定する検査)を希望して来院した方である。
Kさんは普段、朝6時に起床する。これは現役時代から変わりが無い。夜は随分と早くなった。昔はバラエティー番組やプロ野球ニュースを見るのが日課であったが最近はとんと興味が無くなってしまったという。不眠で疲労感が強いため、夕食を終える頃にはまぶたが重たくなり、22時前に睡眠薬を服用して消灯する。ご本人曰く「疲労感や眠気はあるのに眠れない。それから長い夜が始まるんです」
Kさんには自宅と同じ22時~6時まで睡眠検査室で寝てもらった。翌日に正味眠れた時間を一緒に計算する。色々な計算方法があるが、消灯してベッドで横になっていた時間から眠れずに目が覚めていた時間を引き算してもらうのが一般的だ。
まず寝つきにかかった時間を思い出してもらう。「良く憶えていないがとにかく時間がかかって苦しかった。1時間ちょっと、いや1時間半はかかったような気がする」Kさんにとって1日のうちで最も苦しい時間である。
次に途中の目覚め時間。自宅では一晩に2回ほど目を覚まし、トイレに行くという。今回の検査では3回であった。「1回目と2回目はトイレも含めてそれぞれ15分、30分くらいでまた寝たかな。3回目はなかなか寝つけず1時間近く目を覚ましていた」
最後に朝の目覚め。「4回目に目が覚めた後はすっかり頭が冴えちゃって、もう眠れなかった。家だったらリビングで一服するんだけど、検査中だからそれもできなくて辛かった。検査終了まで1時間以上は起きてたよね?」
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