第12回 不眠症の本質は睡眠時間の誤認である
シャンパングラスを持つ手が疲れてきた。テーブルの上にいったん戻すか、我慢するか。それにしても長い。いつまで話し続けるつもりなんだ、この部長は。「……にとって大事な三つの袋がありー……」おいおい、もう10分近くも話してるぞ! 乾杯の挨拶は1分までとマナー本にも書いてあるだろうが(怒)「えー、それではご唱和ください。乾杯!」
一席ぶって満足げな部長にとってはあっという間であろうが、聞かされる側はその倍、3倍の長い時間に感じる。ひな壇から招待客のイライラがみてとれる新郎新婦は1時間くらい圧迫面接を受けたような気分に。同じ空間と時間を共有しているのに、各々が感じる時間に大きな違いが生じるのは実に興味深い現象である。
時計がなくても、頭の中である事象の長さをカウントすることができるのは、我々が生来持っている時間認知機能のおかげである。測定インターバルもミリセカンドから数時間のオーダーまで幅広い。ボクサーやアナウンサーなどの例を見ても分かるようにトレーニングで時間認知機能は向上する。カップラーメンが好きな人であればいちいちタイマーを使わなくとも絶妙なゆで加減で箸を手にすることができるようになる。
逆に時間認知に歪みが生じる疾患もある。その1つがこのコラムではおなじみの不眠症である。不眠症の患者さんにとって最大の関心事は睡眠時間であるが、肝心のタイマーにある種の狂いが生じていることが知られている。
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