そして、話題は変わって、ぼくがどうやって写真を学んでいるかということの話になりました。

「いまは、ただ、良い写真集を眺めているだけです……あとは、美術館によく通うようにしています。写真じゃないけれど……本物をたくさん見た方がいいと思って」

 写真家になると決めて以来、近所の写真専門店だったり、写真を本格的に撮っている人に会うと必ず、みんなが口をあわせて「本物に触れなさい」とアドバイスしてくれました。

 それまで美術館に通ったことはなかったけれど、表現することを仕事にしようとしている以上、その歴史も知っておかなくてはと思い、まずは身近なところから、中学時代の美術の教科書を取り出して、いちからおさらいをしました。

 興味があれば理解は深まるもので、原始美術、中世の宗教画、ルネサンス、印象派、抽象画、現代美術……と、中学生当時はまったく理解できなかった芸術の世界が、知れば知るほど面白くなり、美術館にもなるべく行くようにしていました。

 やはり、印刷されたものとは違い、本物には本物にしかない、肌触りがあるような気がしました。

 ジムにそのことをなんとか伝えると、ジムも大きくうなずいて賛同してくれました。

「それはとても大切なことだ。ぜひ続けなさい。わたしもそうしてきた。写真だけを見ていたのでは視野が狭くなる。絵画も彫刻も、とにかく、良いものはたくさん見た方が良い……」

 ジムとの話は尽きず、ぼくたちは1階に下りて、ジムの好きなアーティストの話に耳を傾けました。

 壁一面の本棚から、アンドリュー・ワイエスの画集やアンディ・ゴールズワージーの作品集、そして、最も影響を受けたというエルンスト・ハースの写真集もたくさん見せてもらいました。

 夜も更けてきたので、ぼくはジムにもう一度、感謝の気持ちを伝えてスタジオを後にしました。

 今日のこの日、ジムから聞いたすべての言葉は、ぼくにとっての一生の宝物です。

つづく

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」

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