「たしか『ナガシメ』というんじゃなかったかな? ほら、顔を向けず、見てないかのようにして、見る。そんなふうに、そっと撮るんだよ。動物たちはみんなボディランゲージを読んでいる。バイソンなんかも、まっすぐに近づくと逃げていく。でも、遠回りしながら近づくと、危険を感じないんだ……」

 ぼくは妙に納得したあと、ずっと知りたかったブラザーウルフの表紙の写真についても、その撮影の瞬間がどうだったのか聞いてみました。

 それは、木影から、片目だけが覗くオオカミのポートレートです。

 鋭いまなざしのなかに、人間に向けられた懐疑の念が写されているようにも見え、これまでオオカミが受けてきた迫害の歴史さえも考えさせられるような1枚でした。

「あれはとても不思議な写真なんだ。スタジオのすぐ外で撮ったんだよ。オオカミが向こうから来ているのが分かった瞬間に、とっさに反応して、シャッターを切った。どんなふうに撮れたのかあまり覚えていなかった。構図を決めるような時間もなかったからね。そして現像が上がってきたフィルムをみて、驚いた……良い写真にはそういう驚きがあるものなんだ……」

 ぼくはジムと初めて出会ったときの、その穏やかなまなざしと立ち居振る舞いを思い出しました。

 なにか撮ってやろうというギラギラとした視線というよりは、すべてを受けとめようとするかのような、穏やかに澄んだ印象。

 それは、ジムの撮影の姿勢にも通じるものがあるような気がしてなりません。

 会心の1枚が撮れる瞬間というものは、無心なのかもしれない。

 その瞬間に出会うべくして、努力をしながら生き続けることが、唯一その境地に辿り着く道のような気がしました。

「Take a chanceという言葉を知ってるかい?」

 単語自体は簡単なものでしたが、それはおそらくイディオムで、字面とは異なる意味があるのだろうと思いました。

「ミステイクを恐れない。そう言い換えても良い。とにかく、シャッターを押してみること。技術や構図は大切だが、すべてをコントロールできるわけではないんだから……」

 たとえ技術が上手くなっていったとしても、それを超えたところにあるものを信じられるかどうか。

 それは、人の心を掴む写真を撮る上で、必要な資質なのかもしれません。

 経験からしか語ることのできない話は、天からの啓示のようで、ぼくはずっとジムの言葉に魅了され続けていました。

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