結局、気持ちの整理はできないまま、翌日の夕方がきてしまいました。

 ぼくは持って来たフィルムの束を、どきどきしながら、ジムに渡しました。

「時間をとっていただいて、ありがとうございます……」

 そのとき、ジムとぼくは、作業机のあるスタジオの一番奥の部屋にいたのですが、ジムはその束を受け取ると、部屋の真ん中から中2階へとつづく階段を登りはじめました。

「ついてきなさい」

 促されるままに後ろをついて階段を登ると、そこはジムの書斎でした。

 作業机のちょうど真上にあたり、高い天井とのあいだの吹き抜けの中に、宙に浮かぶように作られた空間です。

 ちょうどひとりが通れるぐらいの、細長い渡り廊下のような場所で、突き当たりと両側の三方に、備えつけのデスクを巡らせることで、事務作業に適したプライベートな空間が作られていました。

 そして、突き当たりのデスクにはパソコン、左手には写真のファイル、右手にはスライドフィルムを確認するための、大型のライトボックスが数台置かれていました。

 ジムが椅子に座り、ライトボックスのスイッチを入れると、白い蛍光管の光が周囲を照らし出し、まるで近未来の宇宙船のコクピットのようでした。

 ジムは1枚ずつ台紙に入ったスライドフィルムをライトボックスの上に並べると、そのなかから気になるものだけを、もうひとつ脇のライトボックスに並べていきました。

 どういう基準で選んでいるのか、まったく分かりません。

 ぼくは心臓が押しつぶされそうになりながら、その様子を1歩後ろに下がって、一言も発しないで、じっと見つめていました。

 するとジムは、突然、静かに声を出しました。

「オー! ビューティフル……」

 ぼくは耳を疑いました。

 <美しい写真なんて、どこにもなかったはず。傷つけないように気を使ってくれてるんだろうな……>

 それでもなお、ジムは「きれいだ、きれいだ」とつぶやきながら、写真を選んでは並べ続け、そして、ぼくの方を向き直して、こんなことを言ったのです。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る