第82回 啓示
「……君は、いい目をしているね」
ぼくはそれを聞いて、さすがに「ノー!」と言って、首を横に振りました。
「ノー、ノー……分かっています。良い写真じゃないことは。どうぞ正直に。真実をいってください」
するとジムは、いつものように穏やかなトーンで続けました。
「正直に言っているんだよ。ほら、これなんかとってもきれいだ……」
ジムがそのとき取り上げた1枚は、朝焼けに染まる雲の写真でした。
森のシルエットの向こうに広がる雲に、朝焼けの光が当たって、紫色の筋がいくつか写っていました。
<あれ? そんな写真あったっけな……>
たしか、あまり見ない空の色だったこともあって、なにげなく撮ってみた写真でした。
でも、花や、生き物たちの写真にくらべれば、構図や光の向きにこだわったわけでもなく、あまり印象に残っていなかったのです。
「その写真……じつはあんまり覚えてません……」
と答えると、ジムはにこやかな笑みを浮かべて言いました。
「そういうことはよくある。あれこれ考えるよりも、すぐに撮った方がいいこともあるんだ。心が反応したものをね」
ジムは構図や被写体というよりも、写真の色に、とても敏感に反応しているようでした。
その証拠に、選別された方のスライドフィルムたちが、いつしか、さまざまな色彩が入り交じった、1枚のステンドグラスのように、美しい輝きを放っていました。
こんなに大きなライトボックスは見たことがありません。
そして、こんなふうに並べて見てみると、自分が文字通り、色とりどりの世界を見つめてきたのが感じられて、新鮮な驚きでした。
でも、だからといって、1枚の写真として見れば、とても良い作品とは呼べません。
ぼくは、正直に告白しました。
「良い写真はありません。ギャラリーに飾ることなんてできない。ひとつも……」
そうつぶやくと、ジムは答えました。