いっぽう、国際環境保護団体「フレンズ・オブ・ジ・アース(FOE)」は、最近開始した「天然バニラを支持するキャンペーン」で、合成生物学を応用して作るシンバイオ・バニリンを槍玉に挙げている。シンバイオ製品は、DNA配列を人為的に操作し、藻類や酵母菌などの生細胞に組み込むことによって作られる。

 酵母の遺伝子を操作するこの方法で、香水にオレンジやグレープフルーツなど柑橘系の香りをもたらす化合物が作られている。また、合成生物学の技術を応用するベルギー企業、エコベール社は、遺伝子を組み換えた単細胞藻類を使ってシンバイオによるパーム核油を製造し、石鹸の原料として使用している(目的はアブラヤシを栽培するための伐採や破壊から熱帯雨林を守ることだ)。

 米国の評論誌はシンバイオ・バニリンについて、「マダガスカルやメキシコの農民たちが支配している、高価な天然バニラ市場と真っ向から競合することになるだろう」と指摘している。果たしてそうだろうか。

 シンバイオ・バニリンの競合相手になるのは、石油化学製品や木材パルプからバニリンを作る、合成バニリン産業のほうだ。合成生物学と合成化学という2つの手法から作り出されるバニリンは、どちらも同じ4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド分子である。シンバイオのバニリンだからといって、どこか薄気味悪いなどと考えるのは、まったくのおかど違いなのである。

 とはいえ、どちらのバニリンも、本物のバニラでないことに変わりはない。本物の“プレーン・バニラ”が食べたいのなら、バニラビーンズが必要ということだ。

(文=Rebecca Rupp/訳=小野智子)

Photograph by Bill Holsinger-Robinson, Creative Commons 2.0

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