コロンブスを航海に向かわせた、トウガラシをめぐる冒険

 それ以降、数々のブリーダーたちの手によって、さらに辛いトウガラシが開発されている。ナガ・バイパーは、134万9000SHU、トリニダード・モルガ・スコーピオンは200万9231SHU、現在のチャンピオンはキャロライナ・リーパーで、220万SHUを記録した。

 トウガラシを食べたときに感じる熱さは、感覚細胞の表面に存在するTRPV1受容体と呼ばれるたんぱく質の働きによる。TRPV1は、私たちを火傷から守る機能を司っていて、通常は43℃を超えると活性化し、熱すぎることを脳に伝える。しかしながら、カプサイシンはこのTRPV1をだまし、体温でも活性化させる作用を持つ。言い換えると、カプサイシンを食べると、脳は火傷をしているように感じてしまうのである。

No Pain, No Gain

 こんな焼夷弾のような食べ物を私たちが欲するのはなぜなのか。

 トウガラシを食べると気持ちがよくなるから、とする説もある。その説によると、カプサイシンが口内にある熱と痛みの受容体を活性化し、その後、モルヒネによく似た内因性のエンドルフィンが放出されるため、ストレス解消や高揚感をもたらすと言われている。つまり、ソファに座ってトウガラシを食べているだけで、ランナーズハイのような高揚感が得られるということだ。

 ペンシルベニア大学の心理学者、ポール・ロジンは、別の説を唱えている。私たちがトウガラシを求めるのは、「制約されたリスク」の一例だというのだ。つまり、怖い映画を見たい、バンジージャンプをしてみたい、ジェットコースターに乗りたいという欲求と同じ。これらの行為は、実際には何の危険も伴わないにもかかわらず、アドレナリンによるスリルが得られるものである。

 いずれにしても、トウガラシへの情熱は、われわれ人類に特有のものらしい。心理学者ポール・ブルームは言う。「タバスコを好んで食べる動物は、人間ぐらいだ」と。

(文:Rebecca Rupp/訳:堀込泰三)