第112話 これはもしかして!春を呼ぶ、雪の舞?

 私は無邪気にロッジの外に駆け出すと、空を見上げた。

 ふんわり、ふんわりと綿毛のような雪が舞い降りてくる。

 相変わらず外は寒いけれど、今までよりも、暖かさを感じる。

 私は、ふと犬たちのことを思った。

 彼らは、一体、この雪降る夜をどのように過ごしているのだろう?

 私はロッジ横の坂を下りて、ドッグヤードへと足を進めると、犬たちは早くも私の気配に気づいて、ほぼ全員の犬たちが小屋から出てきて、吠えながらシッポを振って待っていた。

 犬小屋の屋根には、すでに10センチほどの雪が積もっている。

 犬小屋から出ると、足元がふかふかとしているので、犬たちも嬉しいようで、雪に体をこすりつけている者もいた。

 そんな犬たちの中に、私はアンの姿がないことに気がついた。

 耳が聞こえないために、この騒ぎにも、まったく気づいていないのだ。

 アンの小屋の中を覗くと、スースーと寝息を立てながら、背中を丸めて寝ていた。

 私は、子供の寝顔でも見ているような、穏やかな気分でその背中を見つめていると、はっと思った。

 そう言えば……、春が来ることを喜んではいられない。

 春の訪れは、犬橇のシーズンが終わるということでもあるのだから……。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/