どんなことでも基礎は大切なことで、学校で体系的に教えてもらえるのなら、自分ひとりで試行錯誤するよりも、はるかに効率的に上達することができるでしょう。

 でも、どうやって野生動物に近づけば良いのか。

 どうやって人里離れた森のなかで、暮らしていけば良いのか。

 ましてや、どうやってオオカミやワタリガラスの言葉を覚えたら良いのか……。

 写真以外にも身につけなくてはいけない知識や技術が、いやというほどたくさんあるのです。

 そして、そのほとんどはきっと、実際のフィールドに出てみなければ分からないことばかりでしょう。

 今回の旅の途中、ジムやウィルのそばで少し暮らしてみただけでも、さまざまなことを学び、自分の可能性が広がっていくのを感じました。

 人それぞれに学ぶのに向いた方法があるのなら、ぼくはフィールドで学ぶ方が向いているのかもしれない。

 だとしたら、やはりなるべく早く、ここに戻って来ることを考えよう。

 次もジムにお世話になるのは難しいかもしれないけれど、ウィル・スティーガーのところなら……。

「いつでも戻ってこい」と言ってくれたし、ホームステッドの仕事を手伝いながら生活技術を学び、撮影も続けていけば、なにか道が開けるかもしれない。

 <きっとまた戻って来よう……>

 ぼくはそう決意して、ろうそくの火を吹き消すと、ベッドの中にもぐり込みました。

 辺りは真っ暗で、物音ひとつ聞こえませんでした。

 それでもぼくは、この森のどこかからオオカミの遠吠えが聞こえて来るような気がして、いつまでも暗闇の向こうに耳をすましていました。

つづく

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」

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