第81回 ブッシュ・キャンプ

 夕暮れが迫っていたので、ジムが、「今夜はここに泊まっていったらどうだい?」と言ってくれました。

 願ってもないことで、ぼくはもちろんその言葉に甘えて、このブッシュ・キャンプで一晩、夜を明かさせてもらうことにしました。

 ジムとジュディがスタジオに戻り、1人になったあと、ぼくは小屋の窓から、ゆっくりと暗くなっていくジャッド湖を見つめていました。

 <ここがブッシュ・キャンプ……>

 ぼくは改めて、本の中の遠い世界だと思っていた場所に辿り着くことができた幸運を噛みしめました。

 そして、帰国までは、まだひと月半もあったけれど、その先のことをすこし考え始めていました。

 写真家になりたいと心に決めたとき、それまで通っていた大学を辞めようかと考えたこともあります。

 4年生を目前にしても、勉強に励む気持ちもなく、写真集を見ては、遠くの自然への憧れを募らせるばかり。

 そんなことなら、すぐにでも写真の学校へ行って、そっちの勉強をした方が良いのではないかと思ったのです。

 でも、辞めるのを思いとどまったのは、4年生になる直前に相談したゼミの指導教官からの言葉でした。

「勉強の方法はひとつじゃない。君は自然のなかに出かけながら学んでいたんじゃないかな……」

 そんなふうに励まされ、たとえ稚拙でも、とりあえず卒論だけは書き上げておこうと思いました。

 そして、その秋にオオカミの夢をみて、卒業後はすぐに、こうしてミネソタにやってきてしまった。

 ジムに会いたかったのは、もちろん写真の技術についても教えてもらいたかったわけですが、肝心の弟子入りは断られてしまいました。

 このままフィールドに通い続けていいのか、それともやはりどこかの学校で写真を学んだ方がいいのか……それはとても悩ましい問題でした。