第111話 哀れで愛おしい、糞観察結果

 糞は凍っていて石のように硬く、糞の芯の部分まで調べてみるために、両手でちょっと折ってみることにした。

 糞の内容物のほとんどが毛であるため、簡単にも、チョコバーでも2つに割るように、ポキッと折れた。

 やはり中も、毛がびっしり。

 ムースは馬のように大きく、筋肉が密に詰まったような体をしているため、結構食べ応えがある。

 そんな上質の肉をたっぷりと食べたはずなのに、この毛だらけの糞というのは、どういうことだろうか?

 私は想像した。

 この糞をしたオオカミは、群れの中でも地位が低く、言ってみれば下っ端なのではないだろうか。

 美味しいところの肉は、親分のようなボスオオカミや強い者が優先的に持っていくので、この下っ端オオカミは、毛だらけの皮の部分しか、ありつくことができなかったのではないだろうか。

 しかも、この糞の近くに、一滴の血が落ちていた。

 きっと、ごわごわとしたムースの毛だらけの糞が出たので、肛門が切れてしまったに違いない。

 なんて、かわいそうな、ぢオオカミなのでしょう……。

 私は、この糞の落とし主が、哀れで愛おしくなってきた。

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つづく

廣川まさき

廣川まさき(ひろかわ まさき)

ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/