第111話 哀れで愛おしい、糞観察結果
ムースの残骸を確認したあと、私は雪上に残されたオオカミたちの足跡を辿ってみた。
オオカミの足跡というのは、意外にも細く、ウサギかと思うくらいの小さな穴もある。
しかも雪の深いところなどは、器用に、先頭がつけた足跡を利用するので、頭数に見合う数が残されていない。
スティーブがニコリと含み笑いをして言った。
「こうしている瞬間も、彼らは僕たちの気配を察知して、どこかの林の影から、息をひそめて、様子を伺っているかもしれないよ」
私は周りの林を見渡し、耳を澄ましてみると、なんだか姿を見せずに、ひそめた息づかいが聞こえてくるような気がした。
湖上につけられている痕跡もじっくりと見てみることにした。
ムースの毛を拾ってみると、毛の周りに霜の結晶が付いていて、パリパリとしていた。
毛に付着している血も、雪の上にポタポタと落ちたのであろう血痕も、変色せずに鮮やかな色のままで凍っていた。
それを手に取ってみると、まるで赤の絵の具で作ったカキ氷のようだった。
しばらくそれを眺めて、再び歩き出すと、私はふと足元に、ある物を見つけた。
ムニュ~っと出された細長いものが折り重なっている。
「オオカミの糞だ……」