非常にトリッキーな方法で生活史をまわしている彼ら・彼女らのことを知ると、その巧妙な手法に驚かされるわけだが、しかし、それでも、どれだけの偶然に支えられて、この子たちはここで出会ったのであろうかと考えてしまうのだ。

 うまく水生昆虫に寄生してもカマドウマまでたどり着けるか分からない。カマドウマを操って、水に飛び込ませても、すぐに渓流魚に食べられるとやはりお腹の中で死んでしまう。無事に水に出ることに成功しても、遊泳力に秀でているわけでもなく、どうやってつがう相手を探せばいいんだ! これはほとんどキセキではないか。

 このとき、秋の美しい山林の瑞々しい林床で、清らかな水流を間近に感じながら、ぼくの頭の中で小泉今日子が歌う「優しい雨」のサビがリフレインした。粛々と生活史を回すハリガネムシ的日常の中で、偶然、しかし運命的に出会い、始まってしまった2人である。だからこそ、そんなに慈しみあうように求め合って、解けない結び目みたいに絡まり合うのね。

 ハリガネムシに変な感情移入をおぼえ、その途中で犠牲になった宿主のカマドウマにゴメンナサイ、と思いつつ、妙にしんみりした気分の研究林だった。

 ぼくらが会った2匹のハリガネムシは、佐藤さんの研究室に「お持ち帰り」ということになったので、今も、研究室で仲良くしているかもしれない。気になって問い合わせたら、無事に産卵し、孵化しそうだと連絡があった。善き哉。

 それにしても……最後は、ハリガネムシに感情移入して、帰ってくることになろうとは思ってもいなかった取材であった。

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おわり

佐藤拓哉(さとう たくや)

1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。最新刊は、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。

この連載の前回の
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