第4回 世界初! 寄生虫が異なる生態系をつなぐことを証明

「フィールドで観察してる間にアイデアは溜め込んでて、あと、これやれればきっと何か結果が出るんやと思っていました。それを、京大の和歌山研究林でやらしてもらえました。川のまわりをビニールで覆ってカマドウマなんかが飛び込めないようにした区画と、自然なままの区画を2カ月間比較したんです」

 さらりと言われると、なるほどその手があったかと思うのだが、実行するのはかなり大変な予感がする。なにしろ自然な川が相手だ。聞けば、苦労話には事欠かない。例えば、ビニールで覆った部分でも、そこから魚が逃げてしまったら実験にならないので、上流と下流にネットをはる。しかし、ほうっておくと流れてくるものですぐに詰まってしまう。それを取り除く作業を2カ月間、ずっと続ける、など。

 実験の結果は、労力に見合うものだった。

「──陸の虫が川に入ってくると、川の魚は陸の虫を食べる。なので、川の魚は川の中の虫をあまり食べなくなって、川の虫はたくさんいられる。すると、川の虫が食べていた川の藻類がたくさん食べられて減るとか、川の虫が分解する葉っぱの分解スピードが速くなるっていうふうに。陸の虫が入ってきて、それが川の魚を通して川の生態系全体を変える。基本的には、そういうことが起きると確認できました」

「──さらに、僕らはカマドウマが入る量と、カマドウマ以外の虫が入る量を分けて操作をして実験していまして。ちょうどカマドウマが入る時期に限ってはカマドウマ以外の虫が飛び込んでもあまり影響がなくて、カマドウマが量的にドカーンと入ることが大事で、それで初めて川の中の生態系が変わるとわかってきたんです。それも、これまで陸の虫が単純に落ちてくると考えられていたんですが、ハリガネムシみたいな変わったやつが陸の虫を連れてくることで、初めて量的にも大事なものとして森と川がつながって川の生態系が変わると、世界ではじめて示すことができました」

 それが、つまり、前にも述べた「年間の6割」の話だ。ムッチリとした質感の通り、カマドウマは高栄養食らしいのである。林床を夜な夜な歩き回って、有機物ならなんでも食べて、ぱんぱんに太ったカマドウマは1匹だけでも大きなエネルギー源だろう。ましてや、それがドカンとたくさん水に飛び込んでくるならなおさらだ。

「カマドウマが水に飛び込むのは1年のうちで3カ月くらいだけなんですが、その時期に渓流魚が得る総エネルギー量の9割以上くらいがカマドウマです。実はそれが1年のうちで一番たくさんエネルギーを得られる時期で、たとえば、冬に比べると100倍にもなります。ですので年間ベースに引き延ばしたとしても大きく効いてきて、6割ぐらいがカマドウマで説明できるんです」

 カマドウマだけで、年間6割のエネルギーをゲット! とは本当に凄まじい話だ。カマドウマのあの姿を見ただけでは、それだけの役割を果たしているなど想像も出来ない。

(写真クリックで拡大)

つづく

佐藤拓哉(さとう たくや)

1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。最新刊は、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。