第4回 世界初! 寄生虫が異なる生態系をつなぐことを証明

 佐藤さんは川の中を上流に向けて歩き、ここぞという場所で手際よく電気ショックを与えていった。魚が浮いてくると、その中からサケ科の魚、つまり、釣りの対象としても人気の高いヤマメやイワナを選んでバケツの中に入れた。大部分はヤマメで、いずれも青い斑文がくっきり浮かび上がっていた。優しげな小顔のたおやかな雰囲気はまさに山女(ヤマメ)である。1匹だけいたイワナは、お腹が鮮やかなオレンジ色で精悍な顔つきをしていた。両方とも婚姻色で、鰭に傷などが一切ない美しい魚体だった。

ヤマメ(左)とイワナ(右)。(写真クリックで拡大)

 しかし、こんな細い川に、立派な魚がいるものだ。研究林で保護されているというのもあるだろうが、なんということのない岩の下から大きなヤマメが飛びだしてくるのは、見た目にも美しい光景だった。

 佐藤さんの研究では、これらの魚の胃内容物が問題になる。しかし、腹を裂く必要はない。

「サケ科の特徴で、口から胃まで一直線に繋がっているので、こうやって水を入れてやれば、食べたものを簡単に吐き出します」

 そう言いながら佐藤さんは、ヤマメの口を開き、川の水を入れた洗浄ボトルから大胆に注水した。口の中から黒っぽいものが一気にあふれ出してきた。胃内容物だ。

(写真クリックで拡大)

「出ましたね。カマドウマを食べてます。これ、足が残ってますね」

 おおっ、本当だ。あまりにあっけなく出たものだから、拍子抜けだ。

 ヤマメは、この時期、カマドウマを食べている。動かぬ証拠が出てきた。

 これにて、寄生虫ハリガネムシを中心にした生態系フルコースを堪能させていただいたことになる。

 実は、佐藤さんが渓流に入り、魚を採集しはじめてから、気づいたことがある。

 佐藤さんが、めちゃくちゃ楽しそうなのである。

 カマドウマを扱う時にはあからさまに、ハリガネムシについてはほんの少し、「なんか変なものを扱っているよなあ、オレ」という雰囲気が漏れ出していたのだが、渓流魚については、もう好きで好きで仕方がない、という様子だ。

 そもそも、佐藤さんは、幼少時に渓流でみたサケ科の魚の魅力に導かれて、この道に足を踏み入れた経歴の持ち主なのだ。

(写真クリックで拡大)