第3回 寄生虫ハリガネムシはどうやって宿主の心を操るのか

 カマドウマは成長するのに時間がかかるし、ヨーロッパイエコオロギのように、モデル生物というわけでもない。神経生理学的な研究のためには、ちょっと都合が悪い部分もあるのだが、しかし、現場で実際に寄生されているものだから、それができれば研究の長所にもなるはずだ。いったいどんなメカニズムで行動が操作されるのか、さらにメカニズムが解明されるのが楽しみだ。

 もっとも、生態学者の佐藤さんとしては、この研究はどちらかというと派生的な課題である。

「生態学の立場からすると、別にここ、ブラックボックスでもいいんです。ある生き物が別の生き物の行動を操作して飛び込ませることで、生態系の中で生物群集ができ上がったり、生態系の機能が働いたりするっていう部分がわかればいいので、その時、頭の中でどんなタンパク質が発現しているかとか分かってなくてもいいんですよね。でも、興味深いのは確かですし、解明できたら生態学的な興味につながるかもしれない部分もありますので」

 では、生態学的な興味としては、むしろどっちに向かうのが本来の関心事なのかというと──。

 端的にいえば、飛び込んだカマドウマが、その後、どうなるか、だ。

 やっと、カマドウマ・ハリガネムシのちょっとキモチワルイ関係から、次の話題に移ることができる。研究林で出会う「フルコース」の中で、デザートのごとき清涼な生き物。ヤマメやイワナなどのサケ科の渓流魚だ。

上の魚がヤマメ。(写真クリックで拡大)

つづく

佐藤拓哉(さとう たくや)

1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。最新刊は、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。