第2回 まるで寄生獣!寄生虫ハリガネムシの恐るべき一生

 水生昆虫の「漉し取り食者」の中には、カゲロウやユスリカといった、成長すると川から出て飛び立つ者もいる。

「春になると、ワーッと羽化して陸に飛んでいきますよね。お腹にシストを持ったまま陸域に飛んで、結構川の近くで死ぬんですね。渓流釣りする方とかだとよく見かけていると思います。そうするとカマドウマは森の中から夜な夜な出てきて、落ちている水生昆虫をいっぱい拾い食いしていくんです」

 これでやっと、ハリガネムシがカマドウマまでたどり着いたことになる。

「今までの研究では、カマドウマみたいな陸域の消費者であっても、川の資源に依存して暮らしているというふうに言われてきました。でも、この場合は、実はそれは毒リンゴみたいな感じで、食べてしまうと寄生されて、2~3カ月の間にお腹の中でヒモみたいにボワーッと成長して、下手すると30~40センチもの長さになっている。成長したハリガネムシは産卵したいわけですが、そのためには水に帰らなければならない。それで行動を操作するんです。脳にある種のタンパク質を注入すると言われています。それでカマドウマが飛び込むと、おしりからムニューっと脱出して、ぐるりと生活史が1周したことになりますね」

 水生昆虫やら、カマドウマやら、様々な宿主を渡り歩いて、最終的には生活史をぐるりと1周回す。寄生虫の面目躍如(?)である。

 ここで興味深いのは、やはりカマドウマに寄生した後で、水に帰る方法だ。行動を操作するというのだが、はたして何をしたらそんなことが可能なのだろう。

色の薄いほうが「バカッと開く」メスだ。(写真クリックで拡大)

つづく

佐藤拓哉(さとう たくや)

1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。最新刊は、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。