「寿命は2~3年と言われています。実際、いつ生まれて、どのスケジュールで成長してるのか、未解明なところがあります。少なくとも秋口になると、途端に小さいやつが出てくるので、そこから小さいまま越冬して、春先からたくさんのエサを食べて成長して、もう1年かかって多分成虫になるんじゃないかなというようなイメージですね。もっとも、昆虫は成長に結構いろいろバリエーションがあるので、地域によっても違ってるんじゃないかなと」

 以上、カマドウマについての最低限の理解が得られたと思う。

 このカマドウマが森林の生態系に非常に大きな役割を果たしているというのが、佐藤さんの研究成果だ。詳しくはまた後でこってり教えてもらうが、この時点でひとつだけ押さえておきたいのは、その「大きな役割」が、実は「決定的な役割」でもあることだ。

「僕が研究してきた森では、渓流のサケ科の魚が年間に得る総エネルギー量の6割くらいをカマドウマを食べて得ていたんです。本州でカマドウマが、行動を操作されて川に飛び込む時期は、秋の3カ月くらいなんですが、その間に1年の6割のエネルギーを得てしまうという」

 なかなか定量的な測定が難しいものを、綿密な観察を行ってきちんと推定した。国際的にもインパクトがある研究で、最近注目されている新興分野、生態系寄生虫学の教科書でも、寄生虫による行動操作が生態系に与える決定的な役割の例として挙げられているそうだ。

 そして、カマドウマを操って川に飛び込ませるのが、寄生虫のハリガネムシ、なのである。

翌朝、トラップを回収する佐藤さん(左)。トラップに入ったカマドウマ(右)。(写真クリックで拡大)

つづく

佐藤拓哉(さとう たくや)

1979年、大阪府生まれ。神戸大学理学部生物学科および大学院理学研究科生物学専攻生物多様性講座准教授。博士(学術)。在来サケ科魚類の保全生態学および寄生者が紡ぐ森林-河川生態系の相互作用が主な研究テーマ。2002年、近畿大学農学部水産学科卒業。2007年、三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程修了。以後、三重大学大学院生物資源学研究科非常勤研究職員、奈良女子大学共生科学研究センター、京都大学フィールド科学教育センター日本学術振興会特別研究員(SPD)、京都大学白眉センター特定助教、ブリティッシュコロンビア大学森林学客員教授を経て、2013年6月より現職。日本生態学会「宮地賞」をはじめ、「四手井綱英記念賞」、「笹川科学研究奨励賞」、「信州フィールド科学賞」などを受賞している。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。最新刊は、ニュージーランドで小学校に通う兄妹の冒険を描いた『続・12月の夏休み──ケンタとミノリのつづきの冒険日記』(偕成社)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』 (ちくまプリマー新書・2014年12月上旬刊行予定)がスピンアウトしている。

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