第80回 デレーチョの爪痕

 後ろを振り返ると、ジムも信じられないと言った様子で、首を横に振っているのが分かりました。

 レイヴンウッド・スタジオの上空に到達すると、パイロットが頭に装着したヘッドホン越しに何かを話しはじめるのがわかりました。

 ジムがどういう風に飛んでほしいかの指示をだしたようで、すぐに飛行機はぐるりと旋回を始めました。

水面に浮かぶアメリカシロペリカン。広げた翼の長さは最大で3メートルにもなり、ほとんど羽ばたかず、優雅に空を舞いつづけることができる。(写真クリックで拡大)

 シートからずり落ちてしまうのではないかと思うほど機体が斜めになり、窓の外には、すぐ真下の森が一面に広がりました。

 崖の上に立つクリフハウスも、森に囲まれたスタジオもよく見え、まるで精巧なミニチュアのようでした。

 木の倒れている状況から、嵐がちょうどスタジオとクリフハウスの脇をかすめていったのがよくわかります。

 そのおかげで、ジムの私有地は奇跡的にほとんどが無傷ですみました。

 しかし、その西側に広がるムース湖は、両岸に生えるシラカバの木々たちがなぎ倒され、ほぼ壊滅状態でした。

 ぼくがカヤックの旅で寄り道をして、アビの巣を観察したあの湖のまわりも同じような状態でした。

 もしも旅の途中でこの嵐に遭遇していたら……想像するだけで、恐ろしさに息がつまりそうでした。