この嵐の正体が何だったのか……いろんな噂がたちましたが、現在それは、「Derecho=デレーチョ」と呼ばれる特殊な嵐だったことが分かっています。

 デレーチョとはスペイン語のストレート、つまり、まっすぐという意味で、アメリカ大陸の中央部でたまに起こる大規模な直進性の嵐です。

 嵐自体のメカニズムは通常の寒冷前線とおなじで、暖かい空気のなかに冷たい空気が侵入してきて積乱雲が発達し、激しい雷雨をもたらすというものですが、アメリカのような大陸では、条件が重なると、破壊的な規模となるのです。

 デレーチョの特徴は、長い持続時間と、長い進行距離、そして、強い風です。

 しかし、台風やハリケーンのように渦を巻く低気圧ではなく、雷雨の塊が集まり、巨大な鎌のように弓なりの形となって、ダウンバーストと呼ばれる猛烈な下降気流を伴いながら、6時間以上に渡って、数百キロもの距離をまっすぐに突き進むのがデレーチョなのです。

 なかでも、ぼくがこのときに遭遇したデレーチョは、観測史上でも最大規模のものでした。

 じつに22時間もの長い間、勢いを保ったまま、カナダとアメリカの国境に沿って約2000キロを進み、最終的には大西洋にまで到達しました。

 当時のレーダーの記録を見ると、ノースダコタ州の東部でいくつもの激しい雷雨が生まれ、それが集まってデレーチョの特徴である鎌のような形となり、そのままさらに勢いを増しつつ、東へとまっすぐに進んでいったのがわかります。

 発生地点から約60キロ東にあるファーゴでは、午前8時の時点で、すでに猛烈な風が発生し家屋や商業施設の屋根にダメージを与え、数万世帯に停電をおこしていました。

 約500キロ離れたイリーに4時間ほどかけて到達したとき、デレーチョから繰り出されるダウンバーストの風速は、時速150キロを超えていたとされています。

 トルネードやハリケーンと同じぐらい強い風が地表に向かって一気に吹き下ろし、津波のように木々を押し倒しながら進んでいったのです。

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