第80回 デレーチョの爪痕

 実際、嵐がやってきたその日は、独立記念日の週末を利用してカヌーで旅をしたり、釣りに出た人も多かったのです。

 1人が亡くなり、60人が負傷、そのうちの約20人が自力では脱出できずにレスキューされたということが後に判明しています。

 被害は木と人間だけではなく、この森に暮らす野生動物たちにも及んでいることでしょう。

 ハクトウワシやキツツキなどの野鳥たちは、まだ営巣中だったはずで、多くの巣とともに幼い命たちが数えきれないほど失われてしまったにちがいありません。

 旅の途中で撮影したハクトウワシの巣とヒナたちの姿を思い出して、胸が痛くなりました。

 パイロットとジムが再びなにかを話しはじめたので、ぼくも頭上にかかっていたヘッドホンを装着して、会話に耳を傾けました。

 すると、2人とも、今後起きるかもしれない、さらなる大惨事の可能性について話し合っていました。

 それは山火事です。

 もしも数年後に山火事が発生したら、その勢いを止めることはできないのではないかというのです。

 これだけの木々が一度に倒れ、それが乾燥すれば、いわば森全体が、薪の山と化してしまったのと同じこと。

 風向き次第では、いま残された木々も家々も、すべて灰になってしまうかもしれない。

 嵐が過ぎ去ってもなお、その影響は、これからどれほど大きくなるのか、想像もつきません。

「こんな光景、いままで一度も見たことがないよ……」

 ヘッドホンの向こうから、くぐもった声で届く、パイロットのそんなつぶやきが、いつまでも耳に残りました。