レモンはハイブリッドだった

 柑橘類は、東南アジアが原産と考えられている。少なくとも、いくつかの種類(おそらくオレンジとシトロン)は、アレクサンダー大王のインド遠征後に、地中海地域に持ち込まれたものだ。8世紀のアラブでは、レモンの栽培が行われていた。それが北アフリカに広がり、エジプトでレモネードが発明された。レモンは15世紀にスペインやポルトガルで人気となり、新世界にも伝わった。コロンブスは1493年、2度目の大西洋横断航海の途中で、中米ハイチにレモンを持ち込んでいる。

 レモンの成り立ちが明らかになったのは、ごく最近のことである。科学者がDNA技術を駆使して、その元となった種を特定した。レモンとは、皮が分厚く果汁のほとんどないシトロン(学名:Citrus medica)と、マーマレードに使われる酸っぱい果実であるダイダイ(学名:Citrus aurantium、別名ビターオレンジ)のハイブリッドだったのである。

 レモンが酸味を持つ理由は、クエン酸にある(レモンのpHは2~3)。その酸性の強さから、避妊のための殺精子剤(レモンジュースで浸したスポンジが使われる)にも応用された。女性遍歴で有名なジャコモ・カサノヴァは、半分に切ったレモンを愛人らに装着させ、避妊具にしていたと言われている(レモンが功を奏したのか、彼の無数の情事に対し、子どもは2人しかできていないらしい)。

レモン神話をもつ男

 レモンは、どんな料理にもマッチする。塩に次ぐ2番手の調味料として、レモンを挙げるシェフもいるほど。どんな食べ物でも、レモンをひとかけするだけで、必ずと言っていいほどおいしくなる。

 レモンを西洋料理に持ち込んだのは(少なくともフランス人の主張では)、書籍『フランスの料理人』(1651)の著者、フランソワ・ピエール・デ・ラ・ヴァレンヌと言われている。デ・ラ・ヴァレンヌは、フランス料理を近代化したことでも有名だ。彼のレシピは、中世の人々に人気のあったスパイスをふんだんに使ったシチューや厚切り肉を離れ、生野菜と刺激的な味のソース、ハーブやレモンジュースによる味付けを多用している(パイ生地やオランデーズソースを発明し、トリュフやアーティチョークを世間に知らしめたのも同氏である)。

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