(Photograph by Jessica Wilson/Creative Commons 2.0)

 レモンを使った見えないインクは、アメリカ独立革命や南北戦争、第一次および第二次世界大戦のスパイたちが、標準的に使用していた。イギリスでは1915年、ドイツの「レモンジューススパイ」組織が摘発された。同組織は、あらゆる情報を、レモンを使って祖国に漏らしていたのである。逮捕されたスパイの裁判で注目を集めた“有罪判決を受けたレモン”は、今でも英国国立公文書館に保管されており、黒く干からびて、クルミほどの大きさになっている。

ナポレオン打倒にレモンが担った役割とは?

 こうした秘密の連絡は、数あるレモンジュースの使い道の一例に過ぎない。レモンをはじめとする柑橘類は、豊富なビタミンCの源でもある。レモン1つに、大人が1日に必要なビタミンCの約70%が含まれているのだ。ビタミンCはまた、壊血病の予防に欠かせない栄養素でもある。壊血病は、衰弱性で死に至ることもある恐ろしい病気だ。

 18世紀イギリスのジェームズ・リンド医師は、世界初の臨床試験を実施して、レモンの抗壊血病作用を発見したことで知られる。当時海軍に勤めていたリンド医師は、壊血病の重症患者である海兵12人を6つのグループに分け、各グループに異なる副食を与えた。「リンゴジュース」「酢」「海水」「オレンジ2個とレモン1個」といった具合だ。すると、柑橘類を与えた海兵の回復が早く、6日間の療養で現場に戻ることができたという。

 リンド医師は、454ページに及ぶ著書『Treatise of the Scurvy(壊血病論)』(1753)に、この発見を綴った。しかし海軍の腰は重く、イギリス海兵に毎日のレモンジュースが義務づけられたのは1795年のことであった(後に安価なライムジュースに変更されている)。それから1814年までの間に、160万ガロン(約730万リットル)ものレモンジュースが、イギリス海軍の船に納入されている(オリーブオイルを保護層として、樽で保管されていた)。およそ1500件あった国立海軍病院の壊血病症例数は、同時期に2件にまで減少した。

 壊血病の根絶により、イギリス海軍は沿岸部を守り通すことができた。これが、ナポレオン打倒につながったのである。失脚した皇帝が孤島セントヘレナに幽閉されたのち、イギリス海軍医がこのように記している。「経験豊富な役人の中には、壊血病の根絶がなかったら、沿岸封鎖戦術を続けることができず、フランス海軍を壊滅できなかっただろうと言う者もいる」

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