第3回 アサリ漬けの日々と西表島の決断
――ちょっとがっかりですね。
そうでもなかったですよ。僕はダイビングを通じて、海の生き物にもすでにはまっていましたから、研究用のアナゴを捕る底引き漁が楽しみでした。
でも、海が荒れた日の漁は、東京湾でもひどかったな。すごい船酔いでしたよ。網にかかったアナゴを1匹外すたびに、船べりへ飛んでいってゲーゲー、その繰り返しです。
――アナゴの何を研究していたのですか。
アナゴの頭骨の中にある耳石が対象です。アナゴがレプトケファレス(幼生)から稚魚に変態するときに、耳石の成長線が変化するのですが、成魚の耳石からその変態前後の過程を追えるのではないかというのがテーマでした。「その可能性はある」という程度の結論しか出せませんでしたけれど。
――アサリのほうは?
耳石の研究と同じ手法で、アサリの稚貝を調べ、その成長線がどのくらいのペースでできるのかを知ろうというものです。こちらは多少の成果がありました。それまで、アサリの稚貝に1日にできる成長線の本数は、明確にはわかっていませんでした。しかし、基本的に1日に2本という結果が得られました。
それだけのことを知るのでも、院生の2年間はほぼアサリ漬けの毎日でした。