この周辺に、4つほどの罠が仕掛けられていて、木々が密集していないために、遠くからでも罠の様子が確認できた。
「ん~、かかっていないね~」
スティーブは、あまり動き回らずに辺りを見渡すと、残念そうな仕草を見せて言った。
周辺の罠は、まるでそこだけ時間が止まったかのように、なんの変化もなく、大きな円を描いたまま静止していた。
トーニャもまた、それを見て落胆するようなタメ息を吐いた。
けれど、私はそんな2人の背中に隠れて、少しホッとしていた。
「よかった……、かかっていなかった」
けれど、すぐさまこうも思った。
ちょっと待って!
私はいったい、どっちの味方なの?
森の中で懸命に生きている友人たちの味方?
それとも、森のオオカミたちの味方?
いったい、どっちなの?
あああ……、
つづく

廣川まさき(ひろかわ まさき)
ノンフィクションライター。1972年富山県生まれ。岐阜女子大学卒。2003年、アラスカ・ユーコン川約1500キロを単独カヌーで下り、その旅を記録した著書『ウーマンアローン』で2004年第2回開高健ノンフィクション賞を受賞。近著は『私の名はナルヴァルック』(集英社)。Webナショジオでのこれまでの連載は「今日も牧場にすったもんだの風が吹く」公式サイトhttp://web.hirokawamasaki.com/