実際、芦苅さんは2010年頃からアフリカ各地をまわり、農業の研究所や農家を訪ねてイネの好みや、栽培における問題点を聞くなどのリサーチを重ねている。

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「イネが病気になってしまうので薬を散布したいけれど、そのお金がないという話がある。そうしたら、その病気に打ち勝つ遺伝子を交配で入れる。そうすれば収量は上がるし、栽培している間の彼らのリスクに対する不安も軽減されます。農家は常に不安を抱えているんです。もし台風がきて全滅したらどうしよう、病気が発生したらどうしようって。そのリスクを少しでも下げ、収量を10%でも上げることができれば、稲作がもっと普及すると思うのです」

 いっぽう、育種は名古屋の研究室とかつての教え子がいるフィリピンのIRRIで行っている。2013年1月にスタートしたこのプロジェクトは、5年後の2017年末までにベースとなる品種を200種つくる計画であるため、1年に2度の収穫が可能なフィリピンでの栽培は欠かせない。

「アフリカのイネをつくるのだから現地で育種をするのが理想ですが、環境が整っていません。たとえば、種籾を保存するには4℃に保たなければなりませんが、アフリカは冷蔵施設が充実していなければ停電もよく起こる。何より育種技術を持っている研究者がほとんどいない。指導するにしても遠すぎて私も頻繁に行くことができません」

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 アフリカの現状を踏まえるという意味では、食味に対しての優先度は低い。アフリカでは品種の管理が徹底されておらず、米袋の中に他の品種が混ざっていることなど当たり前。精米技術も低く籾殻が取りきれていない。それでもよしとされている現状では、まず収量を上げることが第一であり、味はその後でいいのではないかと考えている。

 WISHプロジェクトは芦苅さんがJICA(国際協力機構)に協力を要請して始めた小さなプロジェクトだ。実績をつくらなければ予算を増やすことができない。しかし、国内外の企業などから支援の打診も受けているものの、それはすべて断っている。そこにはいくつかのこだわりがあるという。

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