ジムは左右どちらもよく見えるように、後部座席に乗るというので、ぼくは、パイロットの隣の助手席に座ることになりました。
初めて乗る小型飛行機のコックピット。
座席まわりは車よりもずいぶん狭く、シートは固くて、ダッシュボードには何のためなのか分からない計器やスイッチやレバーが、ところせましと並んでいました。
飾り気は全くないけれど、それがかえって機能美を引き立て、未知の世界へと連れて行ってくれそうな、魅力的な空間に映りました。
エンジンがかかり、プロペラがまわりはじめると、機内はものすごい騒音に包まれました。
パイロットが大声をあげて「準備は良いかい?」と聞いてきたので、ぼくは分かりやすいように大きくうなずいて、親指を立てて合図を返しました。
パイロットが前に向き直し、片手でレバーを操作すると、エンジン音がさらに大きくなって、飛行機はブルブルと細かく震えながら滑走路の上を勢い良く走り出しました。
ぐんぐんとスピードを増したかと思うと、急に機体の振動が止まり、ふわりと空中へと浮かび上がるのを感じました。
木の上に出ると、視界が一気に開け、見渡す限り360度、地平線のはるか彼方にまで森が広がっているのが見えました。
目の前には、まるで海に浮かぶ島のように、森に囲まれたイリーの町がありました。
セスナは高度を低く保ったまま、レイヴンウッド・スタジオのある北東にむかって、一直線に進んでいきました。