第79回 空へ
これほどの被害を前にして、撮影どころではなくなりました。
嵐の収まった翌日から、ジムもジュディもスタジオの片付けに追われ、ぼくも、その手伝いを買って出たのです。
チェーンソーを手に、倒れた木を運べる大きさに切っていくジム。
ぼくはその後ろについて、ひとつひとつ拾い上げては、指示された場所に積んでいきました。
どれも同じように見える木だけれど、ジムにとっては、撮影の度に、窓ごしに眺め続けてきた、思い入れのある木ばかりなのかもしれません。
とにかく倒木の数が多すぎて、この調子では何日かかるのか分からなかったけれど、ジムもぼくも、ただ黙々と作業を続けるよりほか、仕方ありませんでした。
屋根にもたれかかった松だけは、さすがに大きすぎるので、後日専門の業者に来てもらうことになっていました。
木はたくさん倒れてしまったけれど、ぼくの耳に届いてきた限りでは、ジムの知人でけが人が出たという話はなく、ノースカントリー・ロッジのトムやキャロルたちも無事でした。
毎日、スタジオとクリフハウスを往復していると、道路沿いのあちこちからは、チェーンソーや発電機をまわす音が騒がしく聞こえてきました。
自分たちでできることは、自分でする……町を離れて暮らす人々のたくましさに感銘を受けると同時に、それらの機械を当たり前のように所有していることに驚きました。
独立心の強いアメリカ人のなかでも、こんな辺境で暮らす人々です。
電気が戻って来るまでじっと待つなんてことは、きっと耐え難い苦痛にちがいありません。