「大学院で研究を続けていた1996年頃、筑波にある農林水産省の研究所で『イネ・ゲノム解析研究プロジェクト』があることを知りました。100名もの研究者が集まってイネの遺伝子と塩基配列を解読する国際プロジェクトで、2004年にはイネ『日本晴』の遺伝子の全配列を解析しています。ここに頼み込んで参加させてもらったのです。当時、私を含めて学生はたった2人。いま考えればよく入れてもらえたなと思いますが、ここで研究を重ねて遺伝子を特定する技術を得ることができたんです」

 生物は細胞からできている。細胞のなかには染色体があり、さらにそのなかに遺伝子が配列されているのだが、芦苅さんが修得したのはイネが持つ12本の染色体の中から目的の遺伝子を特定する技術。いまでこそ世界各国で行われているが、その頃は非常に特殊な技術だった。

「この技術によってイネの交配や遺伝子組み換えがよりスムーズに行えるようになりました。イネの栽培にとってとてもエポックメイキングなことですが、決して私の力だけではなく、多くの専門家が集まる環境だったからこそできたことです」

 その後、芦苅さんは名古屋大学に移り、自身が持つ技術でイネの遺伝子の特定に努めてきた。研究の中心は浮きイネだ。水位が上がるほど背丈が伸びる浮きイネの性質に着目して解析を行い、背丈を抑制する遺伝子Snorkelを見つけるにいたった。そして研究室をかまえることになったときに、遺伝子の解析とイネの品種改良を一緒に取り組むことを研究テーマとしたのである。

「私より優れた遺伝子の研究者はたくさんいるし、育種のプロも日本には大勢います。でも、そのふたつを融合させている人はあまりいません。幸い、私は両方の技術を身につけることができ、遺伝子の特定から育種まで一貫して行うことができる。それならば他ではできない新しいことに挑戦しようと考えたんです」

浮イネを栽培する水槽(左)と、成長後に水から上げて育てている浮イネ(右)。水かさを高くすれば2階の高さ以上に伸びる浮きイネもある。イネは生物学の研究対象としても非常に興味深い植物だという。(写真クリックで拡大)

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