File6 日本発、次世代の緑の革命 芦苅基行

第1回 組み換えと異なるもうひとつの遺伝子技術

「イネのなかには穂の数が多かったり、病害虫や暑さや寒さに強かったりなど、さまざまな性質をもつものがあります。その性質のもとになる遺伝子をつきとめてから、収量が多い品種をつくりたいのであれば収量を増やす遺伝子、病害に強い品種なら耐病性の遺伝子に着目して、それを持つ株を選抜、交配させていくのです」

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 たとえば……と言って、芦苅さんは種類の異なる2種類のイネを水田から抜いて見せてくれた。1本目のイネに比べ、2本目の方が枝の数も、その枝についた米粒の数も2倍以上多い。つまり、2本目は「収量を増やす遺伝子」を持っている可能性が高いということになる。

 2004年、日本が中心となった国際研究チームによってイネの品種「日本晴」の約4万個からなる遺伝子の配列がすべて解読された。これは植物においてはシロイヌナズナに次ぐもの。イネを構成する遺伝子が明らかになることで、優れた性質を持つ遺伝子を特定しやすくなって、イネの品種改良にひとつの変革をもたらした。

 芦苅さんはそれ以前から遺伝子をつきとめる研究をしていて、まだ助手だった2002年に、1960年代からの緑の革命でアジアのコメの生産量などを倍増させた「奇跡のコメ」と呼ばれる品種「IR8」が持つ sd1遺伝子を同定することに成功している。

「sd1は背丈を制御するのにかかわる遺伝子です。イネは背丈が高いと穂の重さによって倒れてしまうため、背丈を低くすることで倒れにくくして収量を安定させるのです。IR8にこうした遺伝子があることは以前からわかっていましたが、その遺伝子がどこにあるかまではつきとめられていませんでした。それを本田技術研究所や理化学研究所、フィリピンの国際イネ研究所(IRRI)とともに解明したのです」

 2005年には、芦苅さんはイネの米粒を増やす遺伝子gn1を発見している。粒が増えると重くなってイネが倒れてしまうため、gn1とsd1を両方取り込んだコシヒカリをつくることにも成功した。さらに2010年には、枝分かれを促進する遺伝子WFPを発見。日本の一般的な品種「日本晴」にWFPを持つ品種ST-12を交配させたところ、約2倍の枝をつけ、粒数も大幅に増加したという。この成果は、食料危機に貢献できると米国科学誌『nature genetics』にも掲載されている。

 しかし、こうした研究こそ遺伝子組み換え作物などの新しい分野に適しているのではないかとも思われるが、芦苅さんは日本で従来行われてきた交配で品種改良することにこだわる。