File6 日本発、次世代の緑の革命 芦苅基行
第1回 組み換えと異なるもうひとつの遺伝子技術
9月初旬のある日、広大な水田の一角に私たちは立っていた。目の前にはイネが青々とした葉を空に向かって伸ばしている。この季節、日本各地でよく見られる光景だ。しかし、ひとつ大きく違うことがあった。ふつうの水田は背丈も穂並みも均一に揃っているが、この20アール程度の水田のイネは背丈も穂のつき具合もバラバラなのである。
「この水田では数百種類のイネの品種を育てています」と話すのは、名古屋大学生物機能開発利用研究センターの教授で農学博士の芦苅基行さん。植物が環境に適応する仕組みを遺伝子レベルから解明する分子生物学の研究者で、イネを専門としている。愛知県東郷町にあるこの水田は名古屋大学の研究フィールドであり、芦苅さんの研究の現場なのだ。
現在、世界の人口は約72億人。その9人に1人が飢餓に苦しんでいるという。2050年に人口が90億人に達するといわれているいま、現状のままでは食料問題が深刻化していくことは目に見えている。それを食い止める手段のひとつとして世界各地で研究が進められているのがバイオ技術だ。遺伝子レベルで行われる作物の品種改良は、1960年代に農業技術が飛躍的に向上した「緑の革命」のように作物増産をもたらすのではないかと言われている。
バイオ技術と聞いて多くの人が思い浮かべるのが遺伝子組み換え作物だろう。確かにトウモロコシやダイズなどは、アメリカのモンサント社が開発した遺伝子組み換え作物によって収量が増加した。しかし、人工的に手を加える遺伝子組み換え作物は食品としての安全性やその他の生物への影響などさまざまな問題が懸念され、反対派も多い。
いっぽう、芦苅さんはそれとは違ったアプローチで遺伝子の性質を活用し、穀物のなかでも世界で最も需要の高いイネの優良品種をつくる研究を進めている。それはどのような方法なのか、そしてどのような可能性を秘めているのか。話を伺うべく、芦苅さんの研究の場に訪れたのだ。
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