「板の内部構造を切ってみると一目瞭然なんです。この板って、スカスカで脆いんです。とても鎧としては役立ちそうにない。それに、板の根本の部分に見られる、板と皮膚をつなげる役割のある線維の発達する方向から、板は横に倒れられないことがわかったんです。これでは身を守る鎧にはならなかったという結論です」

 放熱説には有利な証拠が出てきて、防御説は退けることができた、というわけだ。

 一般に「●●できない」ことを証明するよりも、「●●に役立っていた」と結論する方がはるかに難しい。この場合も強度や構造に問題があって物理的に無理である以上「防御の役には立たない」とは言える。しかし、血管が張り巡らされているからといって、即座に「放熱に役立っていた」と断言するわけにもいかない。そこで、林さんは何をしたか。

「現生動物と比較することで類推する、ということですね。例えば、オオハシっていう大きなクチバシを持った鳥がいます。クチバシには血管が張り巡らされていて、それをつかって体温調節していたことが最近の研究でわかっていたんです。この研究を踏まえ、ワニなどの現生動物と比較することで、似た仕組みを持ったステゴサウルスの板も、放熱に役立っていたと、強い証拠になったんです」

 ワニの背中にあるウロコには、実は骨が入っていて、さらにその中には血管が通っている。ステゴサウルスのように巨大な板ではなくても、ワニのウロコも体温調節に役立っていると分かったそうだ。

 そのような積み重ねで、林さんの研究は説得力を持ち、今ではステゴサウルスの板は放熱に役立っていたと、多くの研究者が受け入れるようになった。

 では、もうひとつの仮説、「飾りとして役立っていた」はどうだろう。

ワニの皮の表側(左)と裏側(右)。ワニの背中にあるウロコの下にも骨があり、体温調節に役立っている。(写真クリックで拡大)

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る