第1回 貴重な恐竜化石をぶった切る
恐竜の化石は貴重なものだ。何千万年、何億年もの前の地層から掘り出されたもので稀少だ。全身を再現できる保存状態のよいものなど、何体も出てくる方が珍しい。
もしも、ピンとこない人がいるなら、それは、国内外を問わず、自然史博物館で、ティラノサウルスやアロサウルスなどの派手な肉食恐竜や、ブラキオサウルスやアパトサウルスなど巨大なカミナリ竜の化石が展示されているからかもしれない。少なくとも各地の博物館に展示できる程度には、標本があるのではないか、と。
しかし、大抵の場合、そういった化石は、レプリカ(複製模型)だ。保存状態のよい標本を組み立てた博物館が、ほかの博物館にもレプリカを提供することが多い。
例えば、今回訪ねた大阪市立自然史博物館にある立派なステゴサウルスの展示骨格。これも、やはりレプリカで、本物はニューヨークのアメリカ自然史博物館にある。日本の研究・展示施設が持っている「本物」のステゴサウルスの骨格化石は、国立科学博物館の一体のみだ。やや小ぶりで、骨がまだ十分に発達しきっていないので、亜成体だと言われている。
レプリカではない「本物」の化石は、学術的にとても貴重だと強調して強調しすぎることはない。そういえば、世界で一番有名なティラノサウルスの化石「スー」は、オークションにかけられ約10億円もの高値で競り落とされた。ここまでくると、学術的な意味だけでなく、金銭的な価値も途方ないものになる。
かくも貴重なものであるがゆえに、大切に扱わねばならない。傷つけるなどもっての他である。
そのように考えるのが、普通であろう。