第78回 悪夢
スタジオのなかに入ると、嫌な夢でも見ているかのような薄暗さでした。
ジムがカメラを片付けているあいだ、洗面所で手を洗ったりしているうちに、とうとうぽつりぽつりと雨が降り出したようでした。
大粒の雨は、あっという間に勢いを増してゆきました。
屋根にも激しく打ちつけ、夕立がきたときのようなザアーッという騒がしい音が、スタジオ中に響きました。
「すごい雨だ、帰ってきて良かった……」
ジムは、独り言のようにそうつぶやきながら、玄関脇の窓から、外を眺めていました。
ランチの準備をしていたジュディが、キッチンのなかから返事をしました。
「そうね。いやな感じがしたもの」
ぼくは、渡り廊下の真ん中に立って、壁に設けられた大きな窓から、小川の方を見つめていました。
やがて、風も強くなり、対岸に生える木々の枝が揺れて、何枚もの葉がちぎれて飛んでいきました。
雷も鳴っていましたが、それよりも、ゴウゴウとうなる風の音が、繰り返し押し寄せる波のように聞こえるのが不気味でした。
あまりにも急に変化していくので、いったいどこまで激しくなるのだろうと、すこし心配になってきました。