番外編2 これがチュウゴクオオサンショウウオだ

 野生の個体がどんどん減った。

 今では、中国全体でも、新たな野生個体は滅多に見つからなくなってしまった。最初は野生のものを出荷していた時期もあっただろう。しかし、規制ができてからは、養殖場に野生個体が集められるようになった。銅仁地区でも昔は211の河川にいたことが確認されているが、今は事実上見つからない。

 従って、CGSを中国で見ようとすれば、それこそ大都市のレストランで聞いてみるか、養殖場を訪ねるか、ということになってしまう。

 いよいよこれまで日本では紹介されたことがない(多分)、オオサンショウウオ養殖場の中に潜入するのだが、はっきりいって、なにがなんだか分からなかった。暗いのである。照明がまったくなくて、ひんやりした水っぽい雰囲気は、鍾乳洞に迷い込んだようでもあった。

 手渡されたヘッドライトで照らすと、コンクリートの生け簀がいくつも連なっていて、蛇口からたえず水が流れているのがやっと分かった。

 真っ暗で、ぽたぽたと水のしたたる音。

 鍾乳洞どころか、お化け屋敷!

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 そして、ヘッドライトで照らした水底には、黒々とした塊が、もぞっと動く。

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 これがCGSだ。

 飼育されているとはいえ、生まれ故郷の川に一番近いところにいる「地元」の生き物としての。

 養殖場の主が、ある個体を選んで白いプラスチックケースにいれ、そのまま目が痛いほど眩しい屋外に持ち出した。主は素早く闇と光の世界を往復して、結局、3頭が表に出てきた。

 ぼくたちのグループの中では、調査の主力である田口さんや魏教授が、鋭意、作業に取りかかった。

 CGSをめぐる、中日英・混成隊の調査がやっと始まった瞬間だった。

つづく

栃本武良(とちもと たけよし)

1941年、東京都生まれ。NPO法人日本ハンザキ研究所所長。東京水産大学卒業後、生物科の教諭を経て、姫路市立水族館建設準備室着任。 昭和50年よりオオサンショウウオの生態調査を始める。 平成6年から姫路市立水族館長を11年間務め、退職後、日本ハンザキ研究所を設立。『大山椒魚』(解説、ビブロス)、『生物による環境調査事典』(編著、東京書籍)、『環境保全学の理論と実践3』(共著、信山社サイテック)、『これからの両生類学』(共著、裳華房)などの著書がある。
日本ハンザキ研究所のホームページhttp://www.hanzaki.net/

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫生まれ。作家。98年、小説『夏のロケット』で第15回サントリーミステリー大賞を受賞。少年たちの川をめぐる物語『川の名前』、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)など、多岐のジャンルにわたり多数の著書がある。近著は学校の「いま」と家族、地域の「在り方」をリアルに描いた長編エンタテインメント『ギャングエイジ』(PHP研究所)。
著者自身によるブログは「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターのアカウントは@Rsider