しかし、現実にはウナギの放流は漁業権を得るために半ば強制的に行われている。吉永講師、塚本教授の考えに倣えば、感染症を広めるリスクのある放流を止めて、本連載の第1回目で紹介した石倉かごの設置のような生息環境を改善する取り組みが求められるが、これが漁業権の認可に際して必要な資源回復の取り組みとして認められなければなかなか推進できるものではない。

 その点で、しっかりした資源量調査を行い、ウナギ資源の回復のために行われた事業の評価を行っていく必要があると東京大学大気海洋研究所の青山潤教授は訴える。

「費用がなかったり、手間がかかるといった事情で十分な調査が行えないのは理解できますが、しっかりした調査を行わないことには、ウナギ資源を回復させるために行った取り組みが本当に有効かどうかわからないままになってしまう。なんとしてでも調査を行い、より有効な取り組みを明らかにして、それに注力していかなければニホンウナギ資源の回復は難しいかもしれません」

 今回のシンポジウムを通じて、ニホンウナギを取り巻く様々な問題が論議され、具体的な課題が明確になった。今後は課題を解決するための実際の行動に移していくことが求められるわけだが、そのためには研究者や漁業関係者だけでの努力では不十分だろう。行政による支援が必要なことは前述した通りだが、加えてウナギを取り扱う流通業界の支援も求められる。

シンポジウム「うな丼の未来2」は2014年7月27日に開催された。

 今回のシンポジウムには生活協同組合のパルシステムが参加して、ウナギの売り上げの一部を資源回復に役立てている取り組みが紹介されたが、流通業界からの参加はパルシステムのみ。大量のウナギを販売する大手スーパーや牛丼チェーンにも要請したものの参加は叶わなかったという。これでは研究者や漁業関係者がニホンウナギの保全に取り組んでも、その効果は限定的だろう。

 国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧1B類に指定されたことからわかる通り、ニホンウナギの保全は待ったなしの状態になっているといっていい。流通業界はもちろんのこと、我々消費者を含めてニホンウナギが置かれている現状に危機意識を持って保全に取り組んでいかなければならないのだ。

おわり

斉藤勝司(さいとう かつじ)

サイエンスライター。1968年、大阪生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、輸入代理店勤務を経て、フリーランスのライターに。最先端科学技術、次世代医療、環境問題などを取材し、科学雑誌を中心に執筆活動を行っている。著書に『寄生虫の奇妙な世界―寄生…驚きに満ちた不思議な生活』『イヌとネコの体の不思議: ひげの役割、しっぽの役割とは?』(誠文堂新光社)、『がん治療の正しい知識―22人の名医・研究者に聞いた』(エクスナレッジ)、『群れるいきもの』(宝島社)、『教えて!科学本 今と未来を読み解くサイエンス本100冊』(共著、洋泉社)などがある。

この連載の前回の
記事を見る