最初からうす暗かったものの、確かに、撮影をしているうちに、すこしずつ周囲の光量が落ちていくのを感じました。

 また気まぐれの雨雲が、やってきているのかもしれません。

 それから間もなく、ジュディは腕を組むようにして、ひじのあたりを両の手のひらでさすりはじめました。

 まるで寒気を感じているような仕草でした。

 そして、ついに耐えられなくなったのか、肩をすぼませながら言いました。

「気分が悪いから、先に帰ってるわね……」

 ジムが、「うん。大丈夫かい?」と心配そうに聞くと、ジュディは「ええ、大丈夫」と返事をして、もと来た道をスタジオの方へ歩いてゆきました。

 撮影を続けていたジムは、カメラの前に立ちながら、露出計で数回、光の強さを測り直しました。

 そして、その数値をまじまじと見つめながら、首をひねりました。

「おかしいな……これじゃ、まるで夜だ……」

 そのときのシャッタースピードは、すでに30秒を超えていて、1枚を撮るのに、相当ゆっくりとした時間が流れていました。

 ジムは納得がいかないようでしたが、なおも数回シャッターを切りました。

 そして、ようやく切りをつけたのか、「スタジオに帰ってランチにしよう」といって、片付けを始めました。

 正午だというのに、すっかり夕暮れどきのような暗さでした。

 ぼくは、この厳かな雰囲気に満ちた、ホワイトシダーの森に別れを告げ、ジムの後ろについて、もと来た道を引き返しました。

 スタジオの車止めまで戻ってくると、出発したときよりも、はるかに黒い雲が空を覆っているのが見えました。

 なまあたたかい風が、その雲に吸い込まれていくように流れ、近くの斜面では、緑の葉をつけたシラカバの木立が、枝を揺らして、ざわざわと騒ぎはじめていました。

つづく

大竹英洋

大竹英洋(おおたけ ひでひろ)

1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年に米国のミネソタ州を訪れて以降、北アメリカ大陸北部に広がる湖水地方「ノースウッズ」の森に魅せられ、野生動物や人々の暮らしを撮り続けている。主な著書に『ノースウッズの森で』(「たくさんのふしぎ傑作集」)、『春をさがして カヌーの旅』(「たくさんのふしぎ」2006年4月号)、『もりのどうぶつ』(「こどものとも 0.1.2.」2009年12月号)(以上、すべて福音館書店)などがある。また、2011年3月NHK BSの自然ドキュメンタリー番組「ワイルドライフ カナダ ノースウッズ バイソン群れる原生林を行く」に案内人として出演。近著は「森のおく 湖のほとり ノースウッズを旅して」(月刊 たくさんのふしぎ 2012年 09月号)
本人によるブログは「hidehiro otake photography」

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