「今は亡き自然写真家のレス・ブラックロックは、自然の持ついやしの力を「わが精神科医」と表現した。私の場合は、ミネソタ州北部のわが家の近くにある、樹齢数百年のスギの倒木がカウンセラー役を果たしてくれている。静かに考えたいとき、私はよくそこへ行く。どんよりと曇って、気分も滅入っていたある日、私はこの“旧友”のポートレートを撮ろうと思い立った……」

 ぼくはその写真のコピーを、今回の旅に持ってきていて、途中で何度も眺めていました。

 その写真が好きだったのと、「わが家の近くにある」と書いてあったので、ジムの家を探すときの手がかりになればと思っていたのです。

 まさか今日、その場所に連れて行ってもらえるとは、想像もしていませんでした。

 ぼくが最近落ち込んでいるのをジムが知っていた……ということはないと思いますが、この場所がジムにとってどんな意味を持つ場所なのか、すぐに理解できました。

 そして、たとえ偶然であっても、いまのぼくにとって、この森ほど、心をいやしてくれる場所はないように思えました。

 ジムが、ぼくの方をむいて言いました。

「ここはいつきても、光がソフトなんだ。正午はふつう、コントラストが強すぎて撮影は避けるけれど、ここは特別だ。ホワイトシダーの木々が、太陽の光を和らげてくれるからね……」

 なるほど、空を見上げると、ジムがホワイトシダーと呼ぶ木の枝が、天井をすっぽりと覆いつくすように茂っていました。

 後に調べてわかったことですが、ホワイトシダーというのはこの地方の一般的な呼称で、正確にはスギではなく、ニオイヒバという木でした。

 一歩ずつ踏みしめるように、ジムは、この森をゆっくりと歩きまわり、1カ所に位置を決めると、三脚をたてました。

 ぼくには、その場所が、他とどう違うのか見当もつきません。

 そして、ジムは、背負っていたリュックを地面において、見慣れない大きなカメラを取り出しました。

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